成道館日誌

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OECD国際学習到達度調査

OECDが65カ国・地域の15歳の男女約51万人を対象とし、2012年に実施した国際学習到達度調査(PISA)の結果によると、日本は「読解力」が8位から4位に、「科学的応用力」が5位から4位に、「数学的応用力」が9位から7位に上昇した。文部科学省が掲げた「脱ゆとり」路線の成果と言えるだろう。

各分野の上位3カ国・地域をみると「読解力」は1位上海、2位香港、3位シンガポール、「科学的応用力」も1位上海、2位香港、3位シンガポール、「数学的応用力」は1位上海、2位シンガポール、3位香港である。結局上位3カ国・地域は上海、香港、シンガポールの国・地域が占めているのである。

ご存知のように上海と香港は中国の都市であり、また中国の中では生活水準の非常に高い都市である。シンガポールも面積は東京23区程度で人口は約540万人であり、非常に小さい国なのである(都市のようなもの)。都市と国を同じ土俵で競わせ順位をつけるのは不公平ではないか。

「読解力」と「科学的応用力」は日本は4位だが、OECD加盟国では1位、「数学的応用力」は7位だが、OECD加盟国では2位。これを見ても分かる通り、国でみれば日本は1位、2位といってもいいくらいである。人口1億を超え、国として参加してこれだけ高い順位であるのだから立派なものである。

G7の中でもダントツで順位が高い。たとえば、アメリカは(読解力・科学的応用力・数学的応用力の順に)24位、28位、36位。イギリスは23位、21位、26位。ドイツは20位、12位、16位。

学力低下ばかり言うが、世界的にみれば日本の義務教育は高い水準であることをみるべき。

今回のPISAは、脱ゆとり路線を掲げて平成20年に改訂された新学習指導要領で学んだ生徒が初めて受けたテストで、この結果から、ゆとり教育を転換した学力向上策は功を奏したといえる。

おもしろいのは、上海が2回連続で1位になったのにだれも「上海に学べ」と言わないこと。だれか言ってくれ~~~。

ところで、今まで上位で注目を集めており、かつて教育先進国と言われた北欧諸国はどうであろうか。

フィンランドは「読解力」が3位から6位、「科学的応用力」が2位から5位、「数学的応用力」は6位から12位と急落。スウェーデンは前回「科学的応用力」が平均を下回り、今回はさらに10点もダウンした。

「フィンランドを見習え」と言っていた人は今どう思っているのだろう。




公立小学校に反転授業

9月24日の朝日新聞に、「『反転授業』公立校で」という記事があった。

「反転授業」というのは、これまで学校の授業で教えてきた基礎的な内容を家庭で予習し、家庭で取り組んでいた応用問題を学校で学ぶようにする方法。

これを、佐賀県の武雄市の小学校で始めるというのである。

武雄市ではどのように行うのかというと、「教師が教科書を説明する動画を撮影する。それを端末に入れ、児童はその端末を持ち帰り、動画を見て予習するのが宿題となる。そして授業では、つまずいている箇所を説明したり分からないところを教え合ったりする。さらに、レベルに応じた復習問題が宿題になる。」ということらしい。

この方法が公立小学校でうまくいくと思っているのだろうか。灘中高や開成中高のようなエリート校ならうまくいくだろうが、公立小学校でうまくいくはずがない。残念ながら失敗するだろう。

新聞には「課題も大きい」とあり、課題の一つ目として、「子供がどこまで意欲を持って予習に取り組むか。教材の魅力を高めることがカギを握る。」とあったが、みんなが意欲を持って予習に取り組めるのならば、これまでも宿題をみんなきちんとやってきてスムーズに授業が進んでいるはずである。復習の宿題でさえまともにやって来られないのに、動画を見て理解する予習をみんなができるわけがない。

授業では「子どもが分からないところを教えあったり、解き方を端末で見て共有したりする場面をつくる」らしいが、授業でわからない子を教え合うというのも大問題。家庭で動画を見て理解した子は、わからない子を学校で教えるために予習していることになる。何のための予習か。できる子にはもっと発展的な問題をさせればいいのではないか。「教え合い」「学び合い」というのは学校の授業でやるべきではない。教師の職務放棄に近い。

また、「教材の魅力を高めることがカギを握る」というのもピントがずれている。動画のできの善し悪しにかかわらず見ない子は何人も(あるいは多数)出てくる。そして、見ない子が何人も出てくると結局学校の授業で動画と同じことをやることになり、「反転」にならない。

課題の二つ目に、「低学年ほど映像を見るように促す必要があり、保護者の協力が欠かせない。」とあったが、熱心な保護者は映像を見るように促すだけでなく一緒に動画を見るだろう。そして我が子が理解できているかどうかも確かめるはず。もし理解できていないと熱心な保護者ほどその場で我が子に「授業」をしてしまう。これでは学校の先生の役目を親がやっていることになる。ここまでやってくれる保護者がいればいいが、全員このようにできるわけがない。

学校の先生の動画編集にどれぐらいの時間がかかるのか。レベルに応じた復習問題を宿題にするということだが、1クラスで何種類のレベルの宿題を用意するのか。先生の負担は大きい。

「反転授業」。公立小学校ではやめたほうがいい。




三つの力でよいのか

国語力とは論理的思考力であり、この論理的思考力を身につけるために必要な力は三つにしぼることができると述べてきた。しかし、疑問に感じられることもいくつかあろうかと思う。

・「本当にこの三つの力だけでいいのか」という点について、

本当に三つの力を伸ばせばよい。しっかり練習を繰り返して三つの力を伸ばすこと。

・「多くの国語の問題集にある『指示語』・『接続語』・『内容理解』・『段落の関係』・『要旨』などの問題はやらなくていいのか」という点について

「抽象・具体の関係」・「対比関係」・「因果関係」が学習出来れば十分カバーできる。

「接続語」については、「抽象・具体の関係」で説明・並列・累加の接続語が学習でき、「対比関係」で逆接の接続語が学習でき、「因果関係」で順接・説明の接続語が学習できる。結局三つの力は接続語が重要な役割をはたすので、この学習をしておけば大丈夫。「指示語」・「内容理解」・「段落の関係」・「要旨」は「抽象・具体の関係」(言い換え)で学習できる。

他の問題集で多くの分野に分け、それぞれの分野を少し学習しただけで終わるのを、三つに集約して学習すれば練習量も多くなり、学習効果は大きい。

・「結局入試問題は長文読解なので、長文読解はやらなくてはいけないのではないか」という点について

三つの学習を仕上げるまでは、長文問題はしなくてよい。あせることはない。

・「どんな問題集をやればいいのか」という点について

ほとんど総合問題集なのでそういう問題集はすぐにやってはいけない。特に小学校5年生までは、入試問題集や入試問題を使った問題集はしない方がよい。入試問題には難問や悪問もある。そういう問題に取り組んで解き方を教わっても本人は混乱するだけで、何の得にもならない。

何がよいかというと、D氏の問題集も良いのだがF氏の問題集が大変良い。いずれも小学生向けの問題集であり書店で買うことができる。私の塾ではそれに加えてN氏の問題集も使っている。

 

ところで、もっと国語ができなくて、三つの力を学習するレベルに達していない子はどうしたらいいかという悩みもあると思う。そういう子には私の塾では、「書写」「漢字」「音読」だけをさせている。とにかく音読をさせること。この仕事を始めたころ(20年以上前)から「まず文章をすらすら読めること」と言い続けてきた。音読ですらすら読めるように繰り返し練習させる。そして、「主語・述語・修飾語」を学習させる。とにかく音読は大切。

もうすぐ夏休み。夏休みは時間がたっぷりある。普段まともな国語の学習をしてこなかった子にとって、この夏休みは「三つの力」を学習するいい機会だ。このことは中学生にも言える。塾でやる国語は定期試験対策ぐらいではないだろうか。結局それは暗記なので、それによっていい点を取っても国語力とは関係ない。

時間のある夏休みに国語を勉強しないでいつやるというのか。

夏休みを使って国語力=論理的思考力を学習しよう。




対比 因果

前回は論理的思考力を身につけるために必要な練習のうち「抽象・具体の関係」について述べたが、今回は「対比関係」と「因果関係」について述べる。

対比というのは二つのものを並べて、それぞれの違いを比べることである。

簡単な例

(夏は暑い)。(それに対して)(冬は寒い)。

最初は短い文章から練習していく。(   )の部分のどこかを空白にして、言葉を入れさせる問題から練習していけばよい。例のような練習問題ならすぐにいくつか思いつくだろう。

また、「夏と冬の違い」などいろいろな例で違いを考えさせて、対比になっていることを確認させる学習も対比の概念を教えるうえで効果的である。

筆者は読者に分かりやすく説明するために別なものと比較する。細かい部分で対比になっていたり、大きなテーマで対比になっていたりする。

入試問題では、文章自体は対比でのものでも、「対比関係」の問いは「抽象・具体の関係」の問いにくらべてそれほど多くない。

さて、最後に「因果関係」である。これが一番わかり易い。

簡単な例

今日、(学校を休んだ)。(なぜなら)(風邪をひいたからだ)。

今日、(風邪をひいた)。(だから)(学校を休んだ)。

これも短い文章から練習していく。(   )の部分のどこかを空白にして、言葉を入れさせる問題から練習していけばよい。「対比関係」と同じように、例のような練習問題ならすぐにいくつか思いつくだろう。

文章中では「なぜなら~から」「だから~」という言葉がいつも使われるとは限らない。

入試問題で出題されるのは「なぜなら~から」「だから~」が使われていない文章や、「因果関係」が離れたところにある文章が多い。

「抽象・具体の関係」と比べて「因果関係」はわかりやすいと思う。日常生活の会話でもよく使っているはず。実は「抽象・具体の関係」も日常生活でよく使っているんだけどね。

ここまで3回にわたって述べてきたように、国語の苦手な子には長文読解ではなく短い文章で「抽象・具体の関係」・「対比関係」・「因果関係」の練習をさせることが必要である。これは「国語力=論理的思考力」を身につけるために必要な三つの力なので、国語が苦手な子だけでなく全員に学習させるべきである。

ただし、ここで示している練習はそれぞれの学習の初めの部分だけである。当然これだけの内容で終わるわけではない。

ところで、ここまで読んで疑問に感じられることも色々あるかと思う。たとえば、本当にこの三つだけでいいのか。どの問題集にもある「指示語」・「接続語」・「内容理解」・「要旨」などの問題はやらなくていいのか。結局入試問題は長文読解なので、長文読解はやらなくてはいけないのではないか。どんな問題集をやればいいのかなど。




抽象・具体

国語力とは論理的思考力である。この論理的思考力を身につけるために必要な力は三つにしぼることができる。すでに著名な先生も言われているのでご存じの方もいらっしゃるだろうが、それは「抽象・具体の関係」「対比関係」「因果関係」である。文章もほぼこの三つの関係で成り立っている。したがって三つの関係を読み取る力を身につければ国語力=論理的思考力が身につく。

世の中に多くの国語の問題集があるが、この三つの力を練習することを中心に編集してあるのは残念ながら少数。多くの本は分野を分けていたとしても総合問題をやっているのに等しいものばかり。

まず「抽象・具体の関係」についてだが、難しそうに思えるがそんなに難しくない。またこれは「言い換える力」なので非常に大切。

簡単な例1

大根、白菜、小松菜、つまり野菜。

野菜、たとえば大根、白菜、小松菜。

「野菜」が抽象で「大根、白菜、小松菜」が具体。

例2

秋に庭園に行きました。そこにはコスモスやリンドウやキンモクセイなど秋の花が咲いていました。

「秋の花」が抽象で「コスモスやリンドウやキンモクセイ」が具体。

例3

みなさんはくまモンを知っていますか。くまモンは熊本県のマスコットキャラクターです。

「くまモン」が抽象で「熊本県のマスコットキャラクター」が具体(言い換え)。

例4

僕と三人の友だちは、おにごっことかくれんぼをして遊びました。

この文から具体の「おにごっことかくれんぼ」を除くと、「僕と三人の友だちは遊びました。」というように、主語・述語だけが残り、文の要点になる。主語・述語も大切。

例1~例3を見て分かる通り、「抽象・具体の関係」は「言い換える力」のことである。

例1のように具体から抽象化する(まとめる)、抽象から具体化するという練習から入っていけばわかり易いだろう。そして、「言い換える力」の練習を繰り返しやっていく。ここに挙げた例は小学校の3・4年生でできる易しいものばかりであるが、小学生はこれぐらいのレベルから練習していくのがよい。とにかく最初は短い文章から入っていくこと。長文読解はずっとあとにやる。

筆者(作者)は読者にわかりやすく説明するために、具体例を出したり言い換えたりする。したがって「抽象・具体の関係」(言い換え)は文章中にしょっちゅう出てくる。だからこの関係を読み取ることができるように練習する必要がある。この読み取りができれば文章の内容理解は確かなものになり、論理的思考力につながる。

なお、入試問題では「言い換える力」を問う問題は大変多く出る。




国語の苦手な子に長文読解

保護者と小学生の子供が塾に来て、「この子は国語が苦手なので国語の成績が上がるよう国語力を伸ばしてください。お願いします。」とお願いされた。さて、塾ではどのような国語の授業をするのだろうか。

中学受験のコースならそのまま集団授業の中に入れて長文読解問題を繰り返す。中学受験のコースでなくても、集団授業の中に入ればやはり長文読解問題を繰り返す。あるいは「国語が苦手だから」ということで易しい文章読解問題をするか、説明をより丁寧にするかだ。

このように、多くの塾で行っている国語の授業は、「長文問題を解かせて解説をする」というものである。しかし、残念ながらこの方法では国語力は身につかない。特に国語の苦手な子はもともと文章が読めないのだから、長文を読ませて問題を解かせてもほとんど効果はない。「長文問題を解かせて解説をする」という効果のない問題演習を繰り返し行っているので国語力が身につくはずはない。

長文問題というのは総合問題である。物語文なら、漢字・情景・心情・主題などの問題があり、説明文なら、漢字・指示語・接続語・段落の要点・要旨などの問題がある。国語の苦手な子に総合問題をさせて理解できると思っているのだろうか。

他の教科で考えてみればわかる。算数の苦手な子にいきなり総合問題をさせるだろうか。そんなことはない。割り算が苦手なら割り算の問題を練習し、面積が苦手なら面積の問題を練習する。総合問題をするのはずっとあと。

もうひとつ、スポーツでたとえてみよう。野球の苦手な子にいきなり試合(総合問題)をさせるだろうか。違うだろう。まずキャッチボールから始めてゴロをとる練習、フライをとる練習などの守備練習や、打撃練習をして試合をするのではないか。

でも、国語はいきなり総合問題(試合)をさせてしまうのだ。そして、情景・心情・主題・指示語・接続語・段落の要点など盛りだくさんの内容を一度にやってしまう。いくら先生が上手に説明しても、国語の苦手な子がこれだけの内容を一度に学習することなどできるわけがない。それなのに、同じことを何度も何度も繰り返す。ほとんど効果はない。

残念ながら国語が苦手な子は苦手なまま。

では、どういう練習が必要なのか。